Inner Landscape

2023年、感覚遮断室(田中誠人×岡本奈香子 2021年)、壁に鉛筆、赤外線カメラ、モニター

突如として感覚が冴え渡り、自己と世界が幸福な一体感をもつ。このような心身状態は一般に幻覚やハルシネーションと呼ばれ、各国で脳神経科学的研究が盛に行われてきた。

1960年代には米国を中心に、視覚や聴覚や皮膚感覚といった外的刺激を遮断した感覚遮断室(Sensory deprivation room)を使った研究が盛んに行われ、被験者の約40%になんらかの幻覚症状が現れわれたと報告されている。これは、脳が必要な刺激を外から受け取れなくなり、自己発生的に内から情報を作り出すためとされる。感覚遮断における変容意識、または幻覚は、瞑想や座禅をはじめとする宗教的体験との関連性も指摘されており、幽霊や妖怪といった民俗的な領域、さらにはかつての洞窟における生活といった人類学的な文脈とも繋がる可能性がある。

本作では、感覚遮断室に三日間滞在し絵を描き続ける実験を行った。光も音も無い室内では、青や白の無数の点や淡い光の渦巻きが現れては消えるのが見えた。もはや自分が眼を開けているのか閉じているのか分からなくなった。日を経るごとに、時間の感覚は失われ、方向や位置といった空間が歪みだし、身体の内と外の境も曖昧になっていった。

途方もなく続く時間と、果ての見えない”透明“な地で見た景色とはいったいどのようなものだったのか。

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